第5回 ショパン


音楽雑誌「ショパン」への連載
中井恒仁&武田美和子の「2台ピアノを弾こう!」2台ピアノ誌上レクチャー

第5回 ショパン
ロンド 作品73 2台ピアノ版
難易度 ★★☆~★★★

ピアノを弾くひと、聴くひとにとって、おそらく最も愛されている作曲家のひとり、本紙のネーミングにもなっている「ショパン」。多くのピアノ曲を書いていますが、残念ながら2台ピアノの作品はこのロンドのみ。もっとたくさんの2台ピアノ作品を残してほしかったと思うのは私達だけではないでしょう。18歳の時にソロ作品として書いた後すぐに2台ピアノ版が作られました。

このロンドは、ピアノ協奏曲を意識したのでは…と思う所が多いです。もしかしたら、ソロ曲をピアノ協奏曲にアレンジしようとして2台ピアノ版になったのか、はたまたピアノ協奏曲の作曲の練習として2台ピアノに取り組んだものなのか…?ユニゾンのアルペジオや3連符の細やかなパッセージ、下降の音形など、ピアノ協奏曲第1番の3楽章(ロンド)に似ているなと思う箇所もみられます。協奏曲のような視点でこの作品を見ていくと、相手との役の割りふりによって、パートごとにある変幻自在な性格や表情のイメージが沸いてきます。他のソロの作品などを演奏するうえでも、表現を深めるための参考になる面も。今回の演奏のポイントはこのような協奏曲的な扱いも重視してとらえてみます。

2曲の「ピアノ協奏曲」や、「アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ」など、管弦楽付の作品を若い時期に書いたことからも伺えるように、青年ショパンには、当時花形だったヴィルトゥオーゾピアニストへの憧れがあったのかもしれません。このロンドも当時の作品らしく、ピアニスティックで技巧的な面も随所にちりばめられ、華麗です。135小節~、326小節~、353小節~、389小節~なども、細かい音を、美しい音色とバランスでふたりそろえて演奏するには、個々に高いレベルが要求されます。若き天才「ショパン」のみずみずしく天真爛漫、芸術的な音楽にも近づければ、弾き方によってはいかにも〔お稽古ふう〕にもなってしまう…奏者により作品の魅力が大きく左右されるのも、この曲の面白くもあり、気が抜けない所でもあります。是非、芸術的な演奏を目指しましょう!

今月のテクニック
呼吸を合わせるには・・・・・?合わせる音ばかり気にするのではなく、その音の準備の呼吸、つまり「せ~の~ポン」の「せ~の~」から合わせる意識が必要です。(「ポン」だけを合わせようとすると力みやすく、動きが不自然になったり止まったりしてうまくいきません。)打つような音ではなくその先に響きを伝えるように、音の方向性をイメージし、そこに合うたゆみを持った動きで腕等を下ろすと、不思議と打鍵の瞬間より広がるような、次を作る音が出ます。そしてその前を左右同じ傾斜で持ち上げるイメージ。直線ではなく曲線のこの山の形と、スピードが合うと、音楽が合うわけです。憧れの指揮者の棒のように呼吸できれば最高です!


この曲のCD情報

ヘッセ=ブコフスカ&ピオトロフスキ、チェルニー=ステファニスカ&ステファニスキ、ブルック&タイマノフなど。

関連曲
常にショパンと対比される同世代の作曲家といえば、リスト。「悲愴協奏曲」、「ドン・ジョバンニの回想」、「メンデルスゾーンの《無言歌》の主題による大コンチェルトシュトゥック」。そのメンデルスゾーンが10歳のころに書いたのは「二つの小品」。また、ショパンの音の動きに似ている所もある、モシェレスの「ヘンデルへのオマージュ」など。