ブラームス全曲(ソロ・連弾・ピアノ)演奏会にあたって
第8回 最終回
2014年11月13日(木) 浜離宮朝日ホール
主催:朝日新聞社、プロアルテムジケ
- スケルツォ 変ホ短調 作品4
- 弦楽六重奏曲 第1番 変ロ長調 作品18(連弾)
- 4つの小品 作品119
- ハイドンの主題による変奏曲 作品56b(2台ピアノ)
メッセージ:シリーズ第8回 最終回にあたり
2004年に始めたピアノソロとピアノデュオの全作品のこのシリーズが、最終回を迎えることとなりました。
皆様の応援あってのことと感謝しております。
「ブラームスの音楽を自分の言葉として表現したい」
とスタートして10年もの時間が経ちました。本シリーズの約4割がピアノデュオの作品でしたが、全て共演してきた妻の武田美和子とのピアノデュオも今年が結成15年になります。
この間、ブラームスのピアノ協奏曲や室内楽や歌曲伴奏を演奏する機会にも恵まれました。ブラームスの音楽の味わい深さに多く触れることができ、彼の音楽への一途な思い、また、知れば知るほど見事な技法、そして何よりも心の奥底から湧き上がるその表現の豊かさに心動かされる日々でした。
今回のプログラムは、ソロでは初期のヴィルトゥオーゾ作品の「スケルツォ」と、彼の人生最後のピアノ作品となった「4つの小品 作品119」、ピアノデュオ作品では、若きブラームスのロマン派的な表情が豊かな「弦楽六重奏曲第1番(連弾)」と、希望にあふれた輝かしい「ハイドンの主題による変奏曲(2台ピアノ)」を演奏いたします。
最終回、是非ご来場いただけますと幸いです。
中井恒仁
ブラームス全曲(ソロ・連弾・ピアノ)演奏会にあたって
第7回
2012年11月14日(水) 東京文化会館小ホール
- 2つのラプソディ 作品79
- パガニーニの主題による変奏曲 作品35 第2集
- 新・愛の歌 作品65a(連弾)
- 6つの小品 作品118
メッセージ:シリーズ第7回にあたり
「2つのラプソディ 作品79」は、私が始めて触れたブラームスの作品です。
それまで弾いてきた作曲家とは一味違う深みや渋さを感じて、子供ながら巨匠のような気分で弾いていました。
「パガニーニの主題による変奏曲 作品35 第2集」は、卓越した演奏から「悪魔に魂を売って手に入れた」と噂されたパガニーニの主題を使って作られた超絶技巧の変奏曲です。学生時代に様々な地で武者修行していた時によく弾いていました。
今回のデュオ作品は「新・愛の歌 作品65a」。ダウマーの詩をもとに4人の歌手と連弾の為に書かれた曲(作品65)を連弾のみでも演奏できるようにした多彩な表情を見せる15曲のワルツ集です。
そして最後は「作品118」。ブラームスは最晩年に、心の内を詩的に綴るように作品116から119までの4つの小品集を書きました。諦観を語られることの多い晩年の曲ですが、作品118には、優しさや温かさ、懐かしい思い出、儚い憧れなど、ブラームスの純粋な心を感じさせる美しい長調の作品も含まれています。
中井恒仁
ブラームス全曲(ソロ・連弾・ピアノ)演奏会にあたって
第6回
2011年11月21日(月) 東京文化会館小ホール
- シューマンの主題による変奏曲 作品9
- ピアノソナタ 第1番 ハ長調 作品1
- 大学祝典序曲 作品80(ブラームスによる連弾版)
- ロシアの思い出
メッセージ:シリーズ第6回にあたり
「シューマンの主題による変奏曲」は、ブラームスが尊敬しているロベルト・シューマンの「色とりどりの小品」の中の1曲をテーマにし、変奏曲中にはクララ・ヴィーク(シューマン)の作品からの引用もあります。入院中のシューマンと、夫人クララを気遣い作られました。
そのシューマンを初めて訪れた際に演奏したのが「ピアノソナタ第1番」です。ブラームスが弾き始めると、「クララにも聴かせたいので呼んでくる」と一度演奏を中断し二人揃って聴いたそうです。夫妻は「神が遣わされた天才の一人」、「変装した交響曲のよう」と感激した様子を語っています。
「大学祝典序曲」はブラームスがブレスラウ大学から名誉博士の称号を受けた返礼として作曲されました。改まった作品を書くかと思いきや、なんと4つの「学生歌」が挿入されています。日本でも、「大学受験ラジオ講座」で長年使われていたのでご存じの方も多いと思います。クララにプレゼントされたブラームス本人の連弾版で演奏いたします。
最後は、珍しい作品「ロシアの思い出」です。若いころにブラームスは様々なペンネームで編曲などの仕事もしていました。この作品もG.W.マルクスの名で、ロシアやボヘミアの旋律を使って作られた6曲の楽しい小品集です。
中井恒仁
ブラームス全曲(ソロ・連弾・ピアノ)演奏会にあたって
第5回
2009年11月18日(水) 東京文化会館小ホール
- バラード 作品10
- ワルツ 作品39(連弾)
- ヘンデルの主題による変奏曲 作品24
メッセージ:シリーズ第5回にあたり
今回は、ブラームス30歳台前半までの若い頃の作品を集めてみました。
第1曲目は、ロマン派のひとつの流れでもある、「文学との結びつき」によって生まれた「バラード 作品10」。
21歳の頃の作品ですが、すでにシンフォニックな深い響きも聴かれます。
続いて、ウイーンに在住し数年して書いた「ワルツ集 作品39」。
ショパンともJ・シュトラウスとも違う、ドイツ風な純朴なワルツです。
献呈者でもある評論家のハンスリックに「まじめで無骨な男がワルツを書いた。」と驚かれました。
当時より人気の作品で、ソロ版や2台ピアノ版にも編曲されましたが、オリジナルの連弾で演奏いたします。
後半は、ブラームスの「素材」を発展させる才能が生んだ大作、「ヘンデルの主題による変奏曲 作品24」。
図らずも敵対する道を歩むことになってしまったワーグナーを「古い書法でも作り手によって素晴らしい作品ができるものだ」と認めさせた、変奏曲の傑作です。
25もの変奏から壮大なフーガへと続き、栄光の鐘が鳴り響くようです。
中井恒仁
ブラームス全曲(ソロ・連弾・ピアノ)演奏会にあたって
第4回
2008年11月10日(月) 東京文化会館小ホール
- 主題と変奏(弦楽六重奏曲作品18第2楽章のピアノソロ版)
- 幻想曲集 作品116
- ハンガリー舞曲集(連弾)
メッセージ:シリーズ第4回にあたり
ホロビッツも絶賛した伝説の楽器、1887年製スタインウエイ使用1887年製(ブラームスが54歳の頃)のピアノを運び入れての演奏会です。遠い昔カーネギーホールなどでコンサートに使用されていた楽器です。来日したホロヴィッツも「こんなに良いピアノがあるならアメリカから自分のピアノを運ぶ必要がなかった。」と大変気に入られたそうです。偶然にもこのピアノを弾く機会があり「ブラームスの時代に作られた、渋く威厳を持つ楽器で彼の音楽を奏でてみたい」という思いから今回実現するに至りました。時間の重みと音楽の深さを感じつつ、私自身もどのような音楽が生まれるか楽しみにしています。
今回は、演奏する楽器もブラームスの時代にさかのぼります。1887年製、ブラームスが54歳のころの楽器です。このローズウッドの美しい楽器から奏でられる独特の音色でブラームスを一度演奏したいと思っていました。
プログラムは、この特別な楽器との相性を考えて選曲しました。まず始めの「主題と変奏」は、映画にも使われた有名な「弦楽六重奏曲 作品18」の第2楽章のピアノソロ版で、クララ・シューマンへの誕生日プレゼントとなりました。
それから、「幻想曲集 作品116」。1892年に作曲されたので、まさに今回の楽器と同年代の作品です。
後半は連弾で、ブラームスの愛したジプシー音楽が結集された人気の曲集「ハンガリー舞曲集」です。当時より人々に親しまれ、その後多くの作曲家が連弾作品を書くきっかけにもなりました。1852年から1880年までの長い年月の間に作られた全21曲。各曲の持つキャラクターや自由な表現をお楽しみください。
中井恒仁
ブラームス全曲(ソロ・連弾・ピアノ)演奏会にあたって
第3回
2006年11月15日(水) 東京文化会館小ホール
- 2つのサラバンド
- ピアノソナタ 第2番 嬰ヘ長調 作品2
- 3つのインテルメッツォ 作品117
- シューマンの主題による変奏曲 変ホ長調 作品23(連弾)
メッセージ:シリーズ第3回にあたり
今回演奏する始めの曲は、1854年に作曲された「2つのサラバンド」。ほとんど演奏されることのない珍しい小品で、イ長調の1曲目は28年後の弦楽五重奏第1番に使われています。
続いて「ソナタ第2番 作品2」。作品1のソナタ第1番よりも早い時期に書かれています。リストを彷彿させるような華やかなオクターブで始まり、若い情熱にあふれる作品で、クララ・シューマンに献呈されています。
プログラム後半は、時代を大きく超えて、最晩年の詩的な世界。「我が痛みの子守唄」とブラームス自身が呼んだ一連の小品集の中から「3つのインテルメッツォ 作品117」です。
最後は、連弾で「シューマンの主題による変奏曲」を。今年はシューマン没後150年にあたります。シューマンが聞いた「天使の声」をテーマとした、ブラームスとシューマン家にとり特別な1曲を、この年に演奏したいと思います。
中井恒仁
ブラームス全曲(ソロ・連弾・ピアノ)演奏会にあたって
第2回
2005年11月14日(月) 東京文化会館小ホール
- 8つの小品 作品76
- パガニーニの主題による変奏曲 作品35 第1集
- 2台ピアノのためのソナタ ヘ短調 作品34bis
メッセージ:シリーズ第2回にあたり
ブラームスは15年もの間、ピアノソロの作品を書きませんでした。その長い空白の時間を経て世に送り出したのがこの「作品76」です。交響曲などの大曲を書いている時期に、最晩年のピアノ作品に共通する小品集というスタイルで書かれています。ピアノという楽器の表現の可能性をブラームスはここに見出したのでしょう。
そして、その空白の前の作品が、「パガニーニの主題による変奏曲 作品35」です。二つの変奏曲集になっていますが、今回は第1集を取り上げます。リストの弟子でビルトゥオーゾなピアニストのタウジヒに影響され書き上げたものです。「精巧な指のためのピアノの練習曲」とも記された超絶技巧曲です。
それから、上記のタウジヒとブラームス本人によって初演された「2台ピアノのためのソナタ」。作品番号は一つ前の34。今日ではピアノ五重奏曲版が有名ですが、この2台ピアノ版が先に書かれています。弦楽器とはまた違う2台ピアノの魅力をお楽しみください。
中井恒仁
ブラームス全曲(ソロ・連弾・ピアノ)演奏会にあたって
第1回
2004年11月8日(月) 東京文化会館小ホール
- 自作主題による変奏曲 作品21-1
- ハンガリーの主題による変奏曲 作品21-2
- 愛の歌(連弾)
- 作品52aピアノソナタ第3番 作品5
メッセージ:シリーズ第1回にあたり
ブラームスが好きで、いつかブラームスのピアノ曲全曲の演奏会をと願っていました。
オーケストラ、室内楽、歌曲等どれも素晴らしい作品がたくさん残されていますが、このシリーズでは、彼のもっとも身近にあったピアノという楽器からブラームスの魅力を 全8回にわたって探っていこうと思います。
ブラームスというと渋い、重厚、しっかりとした構築などとよく言われますが、ロマンチックで憧れに満ちていてユーモアにあふれた一面も、彼の音楽が聞いている人の心を動かす大切な要素となっているのではないでしょうか。
そんな彼の素顔に、ソロだけでなくピアノデュオによっても近づけるのではと考えています。ピアノデュオはいずれも妻の武田美和子と共演いたします。ブラームスの心の言葉がそのまま音楽になった地、ドイツやオーストリアに留学しなければ感じなかったであろう事がたくさんあります。そんなブラームスの音楽を自分の言葉として表現できたら・・・とこのシリーズにのぞみたいと思います。
中井 恒仁